突然ですがアマゾン ウェブ サービス(以下、AWS)の利用料金が、高額になっていると感じていませんか?
AWSの利用料金は、基本的に米ドル(USD)で支払います。そのため昨今の為替相場の変動により円高の報道もありましたが、依然として円安の影響を受け、「急増するITインフラコストを節約したい」というお客様からお問い合わせが増えたように感じます。(執筆時点:2024年8月現在)
現在AWSは多くの企業にとって、クラウドサービスのデファクトスタンダードとなりつつあります。その反面、従量課金制による予想外の高コストが課題とされています。特にオンデマンドインスタンスを多用するケースで、予期せぬ運営コストの膨れ上がる可能性があります。
本記事では、リザーブドインスタンス(以下、RI)の基本的な仕組みから購入・管理方法、最適な運用方法まで、利用料金を節約する活用方法を解説します。本記事を参考に、AWSのコストを最小限に抑え、より効率的な運用にお役立てください。
RIの基本知識
RIは、Amazon EC2と呼ばれる仮想サーバーを構築するサービスの料金体系の一つです。クラウドの特徴の一つに、利用した分だけ料金を支払う従量課金制がありますが、このEC2の利用料も通常の料金体系は従量課金制です。
なお、RIはRDSやRedshift、ElastiCacheなどEC2以外も提供されている料金体系ですが、本記事はEC2を対象に、オンデマンドインスタンスとの比較を行います。
Amazon EC2の料金体系
サービス | 初期費用 | 料金体系 | 特徴 |
---|---|---|---|
オンデマンド インスタンス |
なし | 従量課金制 | インスタンスの作成時に費用が発生 |
RI | 前払いによる支払方法に限り、発生 | 一定期間分(1年または 3年単位)の事前購入 |
事前予約することにより、時間単位の割引がある |
オンデマンドインスタンスの料金と比較すると、RIの料金はコストパフォーマンスが高いと言えます。その理由は、オンデマンドインスタンスが利用した分だけ課金される料金体系を採用しており、長期利用によりコストが増加しやすい傾向にあるからです。一方のRIはあらかじめ予約(リザーブ)することで固定する料金体系のため、長期的な利用時に大きなコスト削減の効果が期待できます。
一例として、オンデマンドインスタンスと比べて最大72%の割引が適用される場合があります。特に24時間/365日の運用を必要とするシステムにおいて、この差が顕著に現れます。そのためWebサーバーやDBサーバーなど常時稼働の求められる用途には、RIが適しているケースが多いです。
さらに、RIの利用により、事前に予測できるコストで運用できる点も大きなメリットです。そのため企業は予算を管理しやすくなり、計画的なITインフラの運用が実現可能です。長期的なコスト削減を目指して、積極的なRI活用の検討をオススメします。
Amazon EC2 リザーブドインスタンス(RI)とは
RIは大きく分けて、標準RIとコンバーチブルRIの2種類があります。効率的なコスト管理を目指すため、各RIの特徴・利点を把握したうえで、利用パターンや利用条件に最適なRIを選択する選択することが重要です。
標準RI
- ● 特徴
- ▶ 固定されたキャパシティの確保に適している
- ▶ 高い割引率
- ● ユースケース
- ▶ 定期的に高負荷のかかるアプリケーションなど、一定リソースを確保するケース
- ▶ 毎月一定量の計算処理を行う企業など、定常的なリソース需要が見込まれるケース
コンバーチブルRI
- ● 特徴
- ▶ 将来的なインスタンス変更にも対応できる高い柔軟性と自由度
- ● ユースケース
- ▶ 時期に応じアクセス集中に波のあるECサイトなど、利用パターンが変動するケース
- ▶ サーバースペックを頻繁に変更する開発環境など、インスタンスタイプの変更が予想されるケース
RI利用料金の計算方法
EC2 RIの利用料金は、以下のようないくつか要素によって計算されます。
- ● インスタンスの種類
- ● リージョン
- ● 利用期間の長さ
- ● 前払いの有無
まず、インスタンスの種類は利用するリソース量や性能に影響を与えるため、料金に大きく関わります。
次に、AWSは世界中に複数のリージョンを持っており、リージョンごとの料金が設定されています。これは、リージョンごとの運用コストの違いによるものです。
さらに、RIの契約期間も、重要な要素です。一般的に、1年または3年間の契約期間が選べ、長期にわたる契約ほど割引率が高くなります。例えば、標準RIを選択し、1年間の前払いオプションを選ぶことで、オンデマンドインスタンスと比べて最大72%のコスト削減が期待できます。
AWS利用料金の節約術
EC2 RI は指定期間内で特定の利用量を予約することにより、オンデマンドインスタンスよりコスト削減できる魅力的な料金体系です。最適化の手法と、運用テクニックをそれぞれ以下に解説します。
RIの最適化
利用パターンに応じた適切なRIを選択する重要性は、前述でお伝えした通りです。
ただし、無駄なリソースの減らしコストを最適化するために、適切なRIを選択するだけでなく定期的な見直しが必要です。ビジネス環境やアプリケーションの需要は日々変化するため、当初設定したRIが将来的に最適でなくなる可能性があるためです。
四半期毎など定期的にRIの利用状況を確認し、必要に応じて追加購入や再配置することにより、コストの無駄を最小限に抑えると同時に、適切なリソース確保を目指しましょう。
継続的にRIの使用状況を見直することで、最適なRIを保つことが重要です。
料金削減するためのRIの組み合わせ方
複数のRIを組み合せることにより、利用料金の大幅な削減が可能です。特定のインスタンスタイプやリージョンにとらわれることなく、柔軟にRIを利用することで、最大のコスト削減効果を得られます。
例えば以下のような利用パターンに応じてRIを組み合わせることにより、コストのバランスをとることが可能です。
- ● 標準RI:負荷が一定で、常時稼働するサービス
- ● コンバーチブルRI:需要に応じて負荷の変動するサービス
これに加え、リージョンやインスタンスファミリー全体で使用できるRIを選択することで、コスト効果だけでなく柔軟性も含めた両立が可能です。
料金の変動と最適化
EC2 RI の料金は変動するため、適切なタイミングで購入して最適化することが重要です。RI の市場価格は需要と供給に加え、AWSのプロモーションや新しいインスタンスのリリースに応じて変動します。そのため価格変動を把握して、最適なタイミングで購入することで、AWS利用料金のコスト節約が期待できます。
例えば、特定のインスタンスタイプの需要が低下している期間には、料金が下がる傾向があります。この期間にRIを購入することで、長期間にわたるコスト削減が可能です。また、新しいインスタンスタイプがリリースされると、旧インスタンスタイプ料金が下がるケースが多いです。
RIの購入から管理までの実践ガイド
RIの効果的な利用による、AWS利用料金の節約は前述で説明した通りです。しかし、そのためには正しい購入・管理方法を理解する選択することが重要です。
本章では、RIの購入手順から管理の実践までを詳しく解説していきます。
購入から管理までのプロセス
● 利用パターンの分析:効果的にRIを購入するため、まず最初に行うべきは利用パターンの分析です。組織内でどのようなワークロードが実行されているか、どのインスタンスタイプが最も多く使用されているかを把握することから始まります。この分析により、どのRIが最適であるかの基礎が築かれます。
● 予算計画の策定:次に、必要なRIの種類と期間を決定します。RIには標準RIとコンバーチブルRIがあり、それぞれの特性を理解することが重要です。標準RIは最も高い割引率を提供し、特定のインスタンスファミリーとリージョンにコミットすることでコスト削減が実現できます。一方、コンバーチブルRIは柔軟性を重視し、異なるインスタンスファミリーやOS間で変更できるため、長期的な運用の変更に対応しやすいです。また、契約期間も考慮する必要があります。1年契約や3年契約が一般的で、長期間の契約ほど割引率が高くなる傾向があります。
● RIの種類と期間の決定:その後、予算計画を立てます。RIの購入には事前に支払いが必要な場合が多いため、「全額前払い」「一部分前払い」「毎月の支払(前払い無し)」の3パターンを比較し、最適な支払い方法を選択します。予算計画をしっかりと立てることで、購入後の予算管理にも役立ちます。
● 購入手続きの実行:次に、AWSのコンソールを使って実際に購入手続きを行います。AWSコンソールにログインし、必要なRIのタイプ、インスタンスファミリー、リージョン、そして契約期間を選択します。また、購入時にはマーケットプレイスを活用して、他のユーザーからのRIを購入することも検討できます。
● 購入後の管理:最後に、購入後の管理も忘れずに行います。RIの利用状況を定期的に監視し、必要に応じて未使用のRIを販売したり、新しいRIを購入して最適化を図ることが重要です。
不要になったRIの販売と未使用RIの活用法
不要になったRIは、販売または別用途に再配置することで、リソースとコストの効率化を図りましょう。これにより、AWSの料金体系を最大限に活用し、費用対効果を高めることができます。
● 不要RIの販売:不要になったRIは、米国の銀行口座をお持ちであればAWS Marketplaceで販売することが可能です。他のビジネスやユーザーに再利用してもらい、購入費用の一部を取り戻すことができるため、長期的な活用計画を見直した際に、有効な活用方法です。
出典
● 未使用RIの再配置:未使用のRIはデータ解析やバックアップ用途など、当初想定の業務と別プロジェクトに再配置することにより、リソースを無駄使いすることなく効率的な運用が実現可能です。
管理ツールとモニタリング
AWSの管理ツールとモニタリング機能を活用することで、RIのパフォーマンスを最適化し、コストをさらに削減することが可能です。以下AWSサービスを利用することで、無駄なコストを発生させず最適なパフォーマンス維持が可能です。
● AWS Cost Explorer:過去のリソース使用量を視覚的に表示でき、無駄遣いを抑えるためのトレンド分析が可能です。● Cost Explorer:グラフやチャートを使って使用量を見える化し、月ごとの予算を設定してその予算内での運用をチェックすることもできます。
● AWS Trusted Advisor:過剰なリソースの確認や、コスト効率の良いRIへの切り替えを提案など、コスト削減のための具体的な推奨事項を提供します。
● Amazon CloudWatch:様々なメトリクスを追跡し、インスタンスの状態をリアルタイムで確認できるモニタリングルーツです。過負荷やリソースの過剰使用が発生した際にアラートを設定することで迅速な対応が可能になり、必要に応じてインスタンスの再評価や調整を行い、最適な環境が維持できます。
また、RIの満了日を忘れるとコスト効果の低下する可能性があるため、計画的なスケジュールが重要です。満了日の近づいてきた際には、新しいRIの購入を検討し、古いRIとどのように組み合わせるかを考慮することで、コスト削減効果の最大化を目指します。
まとめ
RIは特定の期間中に一定の使用量を予約することで、オンデマンドインスタンスより利用料金を抑えることができるサービスです。
RIを活用することで、AWSの利用料金を大幅に節約することが可能です。まずは自社の利用パターンを分析し、最適なRIプランを選ぶことから始めてください。