クラウドインテグレーション事業本部の神戸です。
これまで、「さくらのクラウド」構築・運用パックの提供開始以降2つの記事を掲載してきました。
今回は、費用に関する考え方を整理しています。
多くの人にとって、コストは最も気になる項目だと思います。この記事では、クラウドにおけるコスト計算の考え方を簡単に整理し、理解しやすくするための考え方をまとめます。
なお、この記事中の単価や計算式は、この記事の掲載時点における最新情報に基づいています。パブリッククラウドの価格情報は非常に頻繁に更新されるので、ご注意下さい。
コストの構成要素
多くのパブリッククラウドの価格帯は、従量課金の要素を含んでいます。pay-as-you-goと英語でいう従量課金の要素が、クラウドの費用対効果を向上させるのと同時に、複雑化させていることは否めません。もっとも、クラウドの従量課金は原則「多く使うほど単価が下がる」設計になっています。複雑化の代わりに経済合理性が上がっている、ともいえます。
従量課金の計算の基本は、単価×利用量、または単価×利用時間です。
これだけだったらシンプルなのですが、実際は、以下のような要素が計算に関わってきます。
- 料金テーブル:たとえばAmazon CloudFrontは、月当たりのデータ転送量が1TB未満の場合、費用は0ドルです。 データ転送量が月当たり1TB以上10TBまでだと、単価が0.114ドル/GBとなり、10TB以上50TBまででは0.089ドル/GBです。(※本データは2024年12月1日時点の東京・大阪リージョンでの料金情報に基づいています。詳しくはAWSのページをご覧下さい。)
- 無料枠:利用料から一定額を値引いてくれるサービスです。AWSにはアカウント作成後から期間限定の無料枠が、さくらのクラウドには無料トライアルがあります。
- 利用予約による割引:一定のサービス利用を事前に確約することで、大幅な値引を受けられます。AWSにはReserved InstanceやSavings Plansといった予約スキームがあります。さくらのクラウドにも割引パスポートがあり、36ヶ月の利用期間をコミットすることで最大50%もの大幅値引きを受けることができます。
- 為替:さくらのクラウドは円建て価格なので為替フリーですが、AWSの利用料は最初にドル建てで算出され、ドル円の為替が適用されて、円建てで請求されます。この時の為替は、よく報道で目にするインターバンク取引よりも若干不利なレートが適用されます。
その他、定額課金のサービスも一部あります。例を挙げると、AWS Shield AdvancedはDDoS攻撃からネットワークを保護する有料サービスですが、月額3,000ドル(直近の為替換算で500,000円を超えます)、かつ年間契約のサービスです(ちなみにAWS Shield Standardは無料)。厳密には、さらにデータ転送量に応じた従量課金も加わります。詳しくはAWSのページを確認ください。
また、AWSサポートプランはデベロッパー、ビジネス、Enterprise On-Ramp、エンタープライズのうちデベロッパー以外のプランは有料となることに加えて、「最低請求額のXXXドルまたは計算結果のどちらか高い方」のように、AWSの利用度合いに応じて定額課金と従量課金が切り替わります。
一方、さくらのクラウドは標準で円建て価格になっているため、比較的計算しやすくなっています。多くのサービスでデータ転送量に基づく課金がないことも費用シミュレーション上のアドバンテージですが、CDNのウェブアクセラレータはアウトバウンド転送量課金なので、注意が必要です。
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コスト比較 ~ある事例をもとに~
ここで、ある事例を見てみます。フューチャースピリッツが実際に提案を行った案件で、あるシステムのサーバーインフラとして、AWSとさくらのクラウドの両方を提案しました。
本番環境の構成図を、それぞれ下図のように設計しました(実際の内容から一部内容を変更しています。また、ステージング環境の構成図は割愛します)。
いずれの構成図も同じシステム向けに提案したもので、システム要件はそれぞれ満たすものの、完全に同一仕様ではありません。その前提で、利用料の比較表を作ってみました。
パッと見、AWSの方がかなり高く見えます。ただし、このシミュレーションでは、利用予約による割引をいずれにおいても適用していません。どちらにも最大3年間の利用予約があり、それを適用すれば、費用を大きく削減できます(代わりにインスタンスタイプの変更に制約が生じます)。
利用するサービスの数は、さくらのクラウドの方が見るからにすっきりしています。また、さくらのクラウドのSiteGuard Server Editionは、無料で使える国産のWAFです。
ちなみに、この表中の金額は、クラウドの利用料のみを表示しています。自動車で例えるなら、自動車と燃料にかかる費用だけを示しています(自家用車というより、時間単位で借りられるレンタカーを想像した方がいいでしょう)。このレンタカーの運転は、ある程度の水準までは、システム管理の覚えのある方なら可能です。ところが、様々なオプションを設置することで、このレンタカーは宇宙戦艦のように大規模なかつ高性能な機構に仕立て上げることができます。必要があって宇宙戦艦として利用するならともかく、不必要な構成にしてしまった結果意図せずコストが「宇宙戦艦」になってしまっては、たまりませんよね。
運用するクラウド環境がある程度の規模感になった時点で、運転手の役割を、フューチャースピリッツのようなマネージドサービス提供企業にお任せすることをお勧めします。構築・運用の委託料費用がクラウド利用料の他に別途生じますが、(1)クラウド環境の安定稼働、(2)無駄の節減によるコスト最適化、(3)システムやサイトの成長に応じたインフラ規模の拡大、(4)24時間365日体制の監視、及びインシデント対応等々を、お客様に代わって担当させていただきます。
まとめ ~コスパを最適化し、クラウドを有効活用しましょう!
このように、クラウドの費用体系は「初期費用98,000円(税抜)。月次費用55,000円(税抜)」のような、電卓だけで簡単に年額を算出できるものではありません(ちなみにこの価格はフューチャースピリッツのフルマネージド専用サーバーM1のものです。好評発売中!)。
もっとも、電卓代わりになる公式の料金シミュレータをAWSもさくらのクラウドも公開しています。
これらはいずれも有用なツールですが、サーバーに関する一定の知見がないと適切な構成を組むことが難しく、誤った金額を導いてしまう恐れがあります。
ある顧客の事例ですが、自社構築されたAWS環境をフューチャースピリッツで診断したところ、最大40%ほども費用を落とせる可能性があることが判明しました。もちろん、費用以外の機能や仕様を犠牲にすることなしで、です。
脅しのような文言を並べてしまいましたが、ことほどさように、パブリッククラウドのコスト管理には注意が必要です。数クリックでインスタンスを立てられるということは、数クリックで課金が始まるということですから。
言を重ねるまでもなく、クラウドは多彩で多様な機能を持っています。かといって費用を無尽蔵に費やすことは現実できませんし、その必要もありません。
今後クラウドの利活用を進めていく中で、各クラウド提供者のコストシミュレータもぜひお試しください。「イマイチ使い方がわからない」、「必要なサービスは何か見極めがつかない」、「構築も運用は自分でやりたくない」という方がいらっしゃいましたら、ぜひフューチャースピリッツまでお声がけ頂けますと幸いです。
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